エネルギードミナンス
強く豊かな日本のためのエネルギー政策
非政府の有志による第7次エネルギー基本計画

専門的な要約

本計画において重点とする11項目の政策提言の概要は以下のとおりである。

1. エネルギーコストを低減する

コロナ禍からの世界的な需要回復やウクライナ戦争により、エネルギーコストはこの数年に大きく増加し、エネルギー価格高騰に対する日本経済の脆弱性は戦後最大レベルまで高まっている。根本的な低コスト化に向けた一貫した政策を構築すべきときにある。脱炭素に伴うエネルギーコスト増は国力を毀損し、安全保障と経済成長を損なう。

エネルギーコスト、とくに電力コストを低減すべく、政府は、東日本大震災前の2010年の水準である産業用電気料金1kWhあたり14円、家庭用電気料金同21円を数値目標として掲げ、その達成を目指す。

付け焼刃のエネルギー補助金ではなく、以下に述べる原子力の活用、化石燃料の活用、再エネ拡大の抑制、そして税および課徴金などの廃止・減免など、本質的な対策を実施する。

2. 原子力を最大限に活用する

原子力は発電量あたりの人命リスクがもっとも低い安全な電源であり、エネルギー安全保障に貢献する。原子力発電による安価で安定な電力の供給をすべきである。早期の再稼働、運転期間延長、更新投資、新増設が必要である。安全規制と防災に「リスク・ベネフィット」の考え方が無いことが問題である。目標とすべきは国民のために安価で安定な電力供給であり、原子力についてのみリスクゼロを追い求めるのを止めるべきである。

原子力を利用しないことによるエネルギー安全保障上のリスクおよび経済上の不利益も大きい。化石燃料は輸入依存であるし、再エネは不安定で高価だからである。原子力発電の全電源に占める比率を可能な限り早期に50%まで引き上げることを目標とし、その達成を図る。

3. 化石燃料の安定利用をCO2制約で阻害しない

日本のエネルギー供給の柱はいまなお化石燃料である。2021年度における一次エネルギー供給のうち、石油・石炭・天然ガスは合計で83%を占めた。化石燃料を安定・安価に調達することは、日本のエネルギードミナンス達成のためにもっとも重要な要件である。

第6次エネルギー基本計画では、化石燃料、とくに天然ガスの供給量の見通しが、CO2排出削減目標に合わせる形で強引に低く抑制された。このような政策は、長期契約の締結による燃料の調達や、油田・ガス田・炭鉱などの上流への事業参加と権益の確保、火力発電などの燃料利用インフラへの設備投資において、民間企業にとってのリスク要因となって前向きな意思決定を妨げ、国としての化石燃料の安定利用を妨げてきた。

こうした愚を避け、石油・石炭・天然ガスのいずれについても安定した利用を実現すべく、政府はあらためて明確にコミットするのみならず、CO2に関する政策がその妨げにならないようにする。

4. 太陽光発電の大量導入を停止する

太陽光発電には人権問題、経済性、災害時の安全性などの多くの課題があり、日本が国策として実施してきた大量導入は直ちに停止する。世界の太陽光パネルの9割は中国で製造されており、その半分は新疆ウイグル自治区における工程に関係していると言われる。米国などでは、強制労働への関与の疑いがあるとして輸入禁止措置がすでに取られている。

また太陽光発電は間欠的であるという根本的な問題点があり、既存の火力発電設備などに対して二重投資となるために経済性は本質的に悪く、国民経済への大きな負担がすでに発生している。地震や洪水の際には、破損しても発電を続ける特徴があるために、避難、救助などに際して感電による二次災害が発生するおそれがある。中国で製造された太陽光発電は製造時に大量のCO2を発生し、またメガソーラーは森林を伐採して設置するためここでもCO2が発生する。この両者の量は決して無視できる量ではない。

5. 拙速なEV化により自動車産業振興を妨げない

日本の自動車産業は基幹産業であり、部品メーカーは地方経済の要である。自動車7社(トヨタ、日産、ホンダ、スズキ、マツダ、スバル、三菱)は世界の新車販売の約3分の1の2400万台超を生産し。トヨタは1123万台と世界一の販売台数を誇る。自動車産業は、製造業の設備投資の25.9%、研究開発費の30.2%を占める日本経済の成長エンジンである。

EV市場は全体としては伸びているものの、北米市場や欧州では頭打ちになっている。EVは補助金や優遇税制で成長してきたが、現在でも技術としては未熟であり実力だけでは普及することは出来ない。世界の消費者は今なおその85%が内燃機関車の購入意欲が高い。世界的に財政難のため補助金の先細りがある中で、売り上げは陰りをみせ、生産調整も始まっている。

EV化することは、事実上、自動車の基幹部品である日本製のエンジンを中国製のバッテリーに変えることを意味する。このため日本のEV振興策は日本の自動車産業への負の影響が強い。自動車メーカーおよび部品メーカーの経営者や従業員の心理に未来への悲観をあたえ、また融資する金融機関の判断に負の影響をあたえている。拙速なEV推進策は弊害が多く、日本の自動車産業の振興の妨げになるので採用しない。

6. 再エネなどの化石燃料代替技術は、性急な導入拡大はせず、コスト低減を優先する

再エネ、電気自動車、水素、アンモニア・メタネーションなどの合成燃料、核融合などの技術については、今なお技術的に実用化段階に達していなかったり、コストが高いものが多い。これらについては、補助金などで拙速な普及を図るのではなく、それを低コストで実現するための技術開発に注力すべきである。そして低コストの結果として、世界全体で利用者に選択されて普及してゆくことを目指す。

コストが十分に下がる見込みが無いと判明した場合、技術開発プログラムは中断して基礎研究に戻さねばならない。これら技術の国内での導入量拡大については、エネルギーコストの低減に寄与する限りにおいて行うものとする。

7. 過剰な省エネ規制を廃止する

日本の省エネ規制は省エネルギー法を中心に整備されてきたが、大幅な規制緩和をすべきである。元来、省エネとは、企業や家庭のコスト低減という経済的な営みの一部であり、したがって企業や家庭が主体になって行うものである。それはエネルギーを合理的に利用することで光熱費を低減し、設備投資を回収し、なお利益を上げるという営みである。

脱炭素政策を背景として、省エネ法の名のもとに政府が介入する分野は拡大し、社会的な負担増と非効率性、そして一部事業者の利権を生み出している。煩雑な政府への報告書作成や、省エネ規制値の達成についての義務、非化石エネルギーへの転換に向けた数値目標、設備投資や機器購入への補助金などは廃止する。 今後の省エネ政策は、エネルギー利用者に対する情報提供を主眼とし、国の役割は以下に限定する。

  • 自動車、エアコンなどのエネルギー消費の多い機器や、建築物のエネルギー消費に影響の大きい断熱性能について、エネルギー消費量と光熱費目安の測定方法を定めた上で、その開示・表示を奨励する。
  • 合理的に省エネルギーを実践できるよう、自社能力が不足するような小規模な事業者および家庭向けのマニュアルを整備する。
  • 希望する小規模な事業者・家庭に対しては省エネ相談を行う。

また精度の高いエネルギー統計を整備することは政府の役割だが、現行のように省エネルギー法において網羅的に事業者に対してエネルギー消費量などの定期報告を義務付けることは負担が大きいため廃止する。

8. 電気事業制度を垂直統合型に戻す

日本の電力システム改革は完全に失敗した。電気料金を下げることが出来ず、安定供給もままならない。毎年節電要請が発出される状態にある。毎年のように制度が改変され、いくつもの市場が林立するなど、複雑怪奇なものになってしまった。しかも制度の改変が終わる見通しも立たない。問題の根源は、長期的な供給義務を負う、垂直統合された電気事業者が「垂直分離」によって消滅したことにある。これに代わって政府が安定供給を法律で担保することになったが、それが果たせていない。自然独占が成立する電気事業において、官製の市場は機能しなかったのである。

電力システム改革は白紙に戻し、2011年の東日本大震災の前の状態に戻す。すなわち、全国の地域に垂直統合型の電気事業者を配することを基本とし、卸売り電力など一部への参入を自由化するにとどめる。

9. エネルギーの備蓄およびインフラ防衛を強化する

中東での紛争が拡大し、台湾有事の危険が迫っている。ウクライナの戦争では、有事においてはエネルギーインフラが攻撃対象になることがはっきりした。また紅海ではテロ攻撃によって貨物船が航行できなくなるという事態も発生し、同様の事態が他の海域でも起きうるという現実が突き付けられた。日本のエネルギー供給は脆弱であり、シーレーンや国内インフラを攻撃されると日本は敵に屈服することになりかねない。日本はエネルギー継戦能力を高める必要がある。以下の3点が政策として重要である。

  • 原子力のエネルギー安全保障上の価値を確認し、再稼働・新増設を進める。
  • 原子燃料・化石燃料の備蓄状態を確認し、可能ならば備蓄を積み増す。
  • エネルギーインフラへのテロや軍事攻撃に対する防御を、バランスよく強化する。

現在の日本では、原子力発電所だけ一点集中のテロ対策をしているが、これは意味が乏しい。現状では、原子力発電所への攻撃は最もハードルが高く、石油の備蓄施設、石油・ガス・石炭の火力発電所、変電所などは携帯型の兵器やドローンなどでも破壊できてしまう脆弱なものである。総合的なインフラ防衛の強化を喫緊の課題とする。

10. CO2排出総量の目標を置かず、部門別の割り当てもしない

極端なCO2排出目標に基づく割り当ては、日本経済が競争力を持ち、地域経済を支えてきたエネルギー多消費的な製造業を中心とした産業の空洞化を引き起こす。これは経済的に波及して多くの雇用と所得を不安定なものにする。これは強固なデフレ圧力を生じる。

日本のマスコミによる報道の多くは、気候変動によって自然災害の激甚化が起きていると強調する。だがこれは統計データでは確認されていない。また気候危機説が唱えられ、食料生産が減少するといったことが報じられているが、そのようなことはまったくおきていないことも統計データでは明らかである。また気候モデルによるシミュレーションについては、過去の再現計算についてすら大きく観測値と食い違っており、政策決定に額面通り使えるようなものではない。

データに基づいて気候変動リスクを評価するならば、2050年にCO2排出をゼロにするという極端な目標を金科玉条としてエネルギードミナンスを放棄することは、日本の政策として不適切である。本計画では、日本全体のCO2排出総量の目標を置かず、部門別のCO2排出量の割り当てもしない。

11. パリ協定を代替するエネルギードミナンス協定を構築する

パリ協定は実現不可能な数値目標と南北の分断によって行き詰まっており、遠からず空文化してゆく。2025年1月に共和党の大統領が誕生すれば米国が離脱することは確実であり、早ければこれがきっかけとなる。

日本もパリ協定を離脱して、米国と共に、パリ協定に代わる、安全保障と経済成長に重点を置いたエネルギードミナンス協定という新たな国際枠組みを主導する。エネルギードミナンスはもともと米国共和党の思想であり、安価で安定したエネルギー供給によって、自国および友好国の安全保障と経済発展を支え、敵対国に対する優勢を築く、というものである。

パリ協定を推進する「グリーン・ドグマ」に駆られた人々は、太陽光発電や風力発電以外を否定するなど、技術選択が偏狭になり、コストのかかる対策ばかりを推進する傾向があった。新協定では、地球温暖化という言葉は、「核分裂の促進、天然ガス利用の促進、化石燃料の効率的な利用」といった言葉に変換され、原子力、天然ガスの安定供給やエネルギーの効率的な利用など、現実的な国益に根ざすものとなる。フリーライダーテストを満たさないパリ協定の下で発生する産業空洞化を回避でき、地球規模での途上国へのCO2排出活動の移転(カーボンリーケージ)が発生しない。このため、むしろパリ協定よりも、地球規模でのCO2削減のための枠組みとしても効果的となる。

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本計画が重点とする「安全保障」は、(3E+Sのうちの)エネルギー安定供給をひとつの条件とするが、国家の独立および国民の生命・財産の保障という一回り大きな概念である。もうひとつの重点である「経済成長」は、(3E+Sのうちの)ミクロな経済効率性を必要条件とするが、デフレ脱却へ向けたマクロ的な国内総需要と所得の拡大を求めるものである。

本計画は、脱炭素イデオロギーだけが突出するのではなく、エビデンスに基づき、安全保障と経済成長を担保すべく、エネルギードミナンスを基本理念として、日本のエネルギー政策を抜本的に再構築するものである。